インターネットで募集したところ、わずか2時間で定員150名の席が埋まってしまった
山下裕二先生(美術史家)と井浦新さん(俳優、クリエイター)のトークショー。
その内容の一部をご紹介します。

ボストン美術館は蔵が深い

山下
みなさん、こんにちは。日本美術応援団団長の山下と申します。
井浦
日本美術応援団団員3号の井浦新と申します。よろしくお願いします。
山下
まず最初に、この展覧会の全体の感想を話しましょうか。
井浦
僕は大好きな河鍋暁斎(かわなべきょうさい)と柴田是真(しばたぜしん)の『こんな作品もあったんだ』っていうのを見られたのがうれしかったです。明治の風俗が見えてくる浮世絵は役者の仕事にも勉強になると感じましたし、明治の日本の技術も堪能できることではとても楽しかったです。展示作品から、明治という時代の流れを感じてとても感動しました。
山下
本当に内容が充実していて、明治美術を知るためのいい教科書のような展覧会だなと思いましたね。それと、私自身も見たことがないものが多々あって、つくづくボストン美術館というのは蔵が深いな、と。
井浦
蔵が深い。収蔵庫がデカイとか、そういうことじゃない。
山下
そういう意味じゃなくてね、まだまだ知られてない『こんなものもあるの?』みたいな言い方をする時に使う業界用語。ちょっと玄人っぽくっていいでしょ。
井浦
実際まだ手をつけられてない、眠っている文化財がたくさんあると。
山下
ありますよ。ボストンはまだ完全に日本人が洗いざらい調査をしたわけではないと思うんですね。在外の日本美術の調査が本格化したのは、ここ20~30年のことですよ。それで、僕自身も非常に教えられることが大きかったと思います。

美術の楽しみ方を教えてくれたバイブル『日本美術応援団』

山下
ご存じない方もいらっしゃると思いますので、日本美術応援団とはなんぞや、という話しをちょっとしますね。
僕が団長で、今は亡き赤瀬川原平さんが団員1号で、96年から全国をめぐって二人で雑誌連載のために対談して、それをまとめた『日本美術応援団』という本が出版されたのが2000年なんです。この本の装丁をしてくれた南伸坊さんが団員2号で、新くんが3号。
井浦
はい、3号です。
山下
新くんはこの本、読んでくれてたみたいですね。
井浦
僕のバイブルでした。『美術、こうやって見ると楽しいんだ』って、きっかけを頂いた本でした。
山下
新くんとの出会いは、曾我蕭白(そがしょうはく)がきっかけでしたね。新くんという男前が、蕭白という男前の足跡を訪ねて伊勢を巡る『男前列伝』(NHK BS)という番組でした。
井浦
僕が男前、違う、違う。
山下
僕には声かからなかった。
井浦
ハハハハ(笑)
山下
けど、ディレクターがよく知ってる人で、新くんがその旅に出る前に蕭白について予習をしたいと言ってるんで会ってくださいって依頼があって、僕の仕事場に来たのだったよね。蕭白好きなんだもんね。
井浦
好きです。江戸の美術の入口になった人でした。
山下
蕭白のある種グロテスクだけれども、毒々しいエネルギーに満ちてる感じは、今回の展覧会に出てる、明治の例えば小林永濯(こばやしえいたく)だとか、エキセントリックな表現にも繋がっていくものですね。
2012~13年にかけて、渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開催した白隠(はくいん)の展覧会や、昨年、三井記念美術館で開催した「超絶技巧!明治工芸の粋」の時もトークショーをやりましたね。この展覧会は山口県立美術館にも巡回して(現在は郡山市立美術館で開催中/6月14日まで)、先月一緒に行ってきたよね。共通する作者のものが「ダブル・インパクト」にもたくさん出ています。最近は、応援団の活動記録も写真におさめるようになっています。

個人で雪舟の絵を所有する、山口県萩市の菊屋家の前で。

一番真ん中に暁斎を据えた美術史が語られなきゃいけない

山下
出品作を見ながら、コメントしていきたいと思います。
この展覧会の目玉である暁斎を知ったのはいつ頃ですか?
井浦
10年ぐらい前に河鍋暁斎記念美術館にプライベートで行って感動しました。

河鍋暁斎《蒙古賊船退治之図》
1863(文久3)年 ボストン美術館
William Sturgis Bigelow Collection, 11.18148-50
山下
これ(河鍋暁斎《蒙古賊船退治之図》)は鎌倉時代の蒙古襲来を幕末の黒船来襲とリンクさせているわけですね。尊王攘夷思想がささやかれた時代ですから、その見立てで元の軍隊を打ち破る元寇を描いてる。今日これを一緒に見ながら質問してたよね。
井浦
暁斎の作品で、爆発したり光が「スパーッ」と放射するのをいくつか見たことがあったんですけど、今回『あれ、なんかいつもと違うなー』と思ったのが、爆発の真ん中に血しぶきのような赤い点がいっぱい付いていること。これって版画で表現できるのかな、って疑問に思って。
山下
僕もそれはあんまり考えていなかったんだけど、今日見ながら、古田さん(東京藝術大学大学美術館准教授、本展監修者)に聞いたら、やっぱりこれは版ではないだろうと。
古田
吹き付けている。(古田さんプロフィール
山下
リアリティを出すために、筆をパッとやって絵の具を散らしているんだと思います。そういうところに気付くなんて。
井浦
3号、大丈夫そうですか?
山下
3号、だいぶ、上がってきたね。

河鍋暁斎《地獄太夫》
19世紀後半 明治時代 ボストン美術館
Charles Bain Hoyt Fund and funds donated by John C. Weber, 2010.373
井浦
これ、素晴らしいです。《地獄太夫》。
山下
この人が地獄太夫で、一休さんが『イエーィ!』って踊ってるわけです。
井浦
でも実際の一休さん、こんな感じだったんだろうか?と思うんですけど。
山下
一休さんて、テレビアニメのイメージばかりが流通しているけど、実は非常に破天荒な人で、「酒肆婬坊(しゅしいんぼう)」。要するに、酒飲みに行ったり、女郎宿に行ったりしてる人なんですよ。その振る舞いが逸話となって、江戸時代から色んな「一休噺」というのが流通していくわけです。

その一休さんが絶好調で骸骨の上に片足立ちになっている。で、骸骨は皮が無い骸骨の三味線を弾いてる、なんて凝った仕掛けがあります。

河鍋暁斎《竜神》《侍者》
1879–80(明治12–13)年 東京藝術大学
*現在、《侍者》(両脇)のみ展示中
山下
実は暁斎は工芸家に下絵の図案を相当提供していて、今後の研究の重要なテーマなのね。この作品(河鍋暁斎《竜神》《侍者》)は、つい最近暁斎が描いた工芸品の図案だってことが分かった。大島如雲(おおしまじょうん)という人が作った金工作品が現存しているそうです。だからこんなに、細かく描いてるわけですよね。
井浦
どこにあるんですかね。見てみたいですね。
古田
海外ですね。
井浦
暁斎と是真なんですけど、海外の美術館へ行くと必ずありますよね。下手すりゃ、日本より海外のほうがあるんじゃないかと思います。
山下
そうです。もう断然、国内よりも海外の評価のほうが高い。だって、暁斎の一番本格的な展覧会を初めてやったのは大英博物館なんだもん(Demon of Painting;The Art of Kawanabe Kyosai 1993~94年)。日本は立ち後れてるんですよね。是真だってそう、工芸全般だってそうです。それにしても、暁斎っていうのはやっぱり、この時代を象徴している。一番真ん中に暁斎を据えた美術史が語られなきゃいけないと思うんですよね。

三代歌川広重《上野公園内国勧業第二博覧会美術館并猩々噴水器之図》
1881(明治14)年 ボストン美術館
Jean S. and Frederic A. Sharf Collection, 2000.508a-c
山下
これは(三代歌川広重《上野公園内国勧業第二博覧会美術館并猩々噴水器之図》)東博(東京国立博物館)の本館の場所にあった博覧会のための建物を描いた版画。この煉瓦造りの建物を設計したのは、誰でしょう。
井浦
ジョサイア・コンドル。
山下
3号、最近どんどん勉強してきてるね。
井浦
東京の中でもコンドルの建築を感じることができますよね。
山下
例えば?
井浦
えーと、三菱一号館。
山下
そう。三菱一号館美術館は明治と同じスタイルで復元したジョサイア・コンドルの建物。そこで、6月からジョサイア・コンドルと暁斎の関係を検証する展覧会「画鬼・暁斎」をやります。コンドルは暁斎に弟子入りして日本画を描いていたんです。暁斎から「英国」の「英」で「暁英(きょうえい)」という号をもらってる。上手いですよ。
井浦
暁斎が亡くなる瞬間、その手を握ってた。
山下
そのコンドルが設計した建物です。そういえばこの煉瓦の感じとか、今の三菱一号館の建物と共通するところがありますよね。

「粋」という言葉がこれほどぴったりな人はいない 柴田是真


柴田是真《野菜涅槃図蒔絵盆》 1888(明治21)年 ボストン美術館
Museum purchase with funds donated anonymously and by exchange from the William Sturgis Bigelow Collection, Charles Goddard Weld Collection, Bequest of Major Henry Lee Higginson, Gift of Dr. Ernest G. Stillman, Denman Waldo Ross Collection, Bequest of Thomas Gold Appleton, Charles Bain Hoyt Fund, John Gardner Coolidge Collection, Julia Bradford Huntington James Fund, Gift of Arthur Croft-The Gardner Brewer Collection, Gift of Mrs. Albertine W. F. Valentine residuary legatee under the will of Hervey E. Wetzel, Gift of Major Henry Lee Higginson, Gift of Louisa W. and Marian R. Case, Bequest of Mrs. Lydia S. Hays, Gift of Mrs. G. Winthrop Brown, G. Winthrop Brown, Jr. and Mrs. E. Paul Love in memory of G. Winthrop Brown, Gift of Miss Lucy T. Aldrich in memory of Miss Minnie A. MacFadden, Anonymous gift, Susan Cornelia Warren Fund, Gift of Miss Emma Rodman, Gift of Miss Lucy T. Aldrich and partial gift of Gallery Chikuryudo Inc., 2008.1413
井浦
是真、好きです。
山下
渋いね~。
井浦
暁斎とも結構関係があって、是真を取り巻く周りの人たちも面白いですね。
山下
多分是真は暁斎のこと、あの酔っぱらいはもう~みたいな感じで嫌いだったと思う。
井浦
人間性は真逆。
山下
是真は黒紋付しか着ない人で、暁斎は飲んで暴れて逮捕されて、鞭打ち50回の刑を受けた人です。暁斎は誰が見ても面白いしわかりやすいけど、是真は素人には分からないような玄人好みのものを作ろうとした人だと思う。その是真と暁斎が同じ画面で合作してたりする。
けど、是真なんて玄人好みのもの、なんで知ったの?5、6年前に三井記念美術館で展覧会をやったけど、その前から?
井浦
その前からですね。
山下
3号、勉強熱心なんだよ。この展覧会もね、忙しいから一時間前に来て一緒に見ようって言ってたら、もう予習で来てた。
井浦
楽しみにしてたんで。
山下
ねえ。偉い。是真の蒔絵(漆の上に金属粉をまいて模様をあらわす技法)の盆ですが、大根が横たわっていて、その周りに野菜があると言えば、思い出すものがあるでしょう。
井浦
ピンときますねえ。伊藤若冲の野菜の涅槃図
山下
そうです。3号、やるねえ。

柴田是真《雪中鷹図》
19世紀後半 明治時代 ボストン美術館
Fenollosa-Weld Collection, 11.4786
山下
是真って蒔絵が本職で粘り気のある漆で描いてくわけだから、ゆっくり慎重な筆運びをする。暁斎はものすごいスピード感があるでしょ。そういう意味で、暁斎と是真のコントラストは面白いね。
ところで、この(柴田是真《雪中鷹図》)雪の粘り付くような表現って、何か思い出さない? 僕は、若冲を見てるんじゃないかと思います。
井浦
そうか。若冲の雪もそうですねえ。
山下
やたら粘り気のあるような、粘着質の雪を描きますよね。
――まだまだトークは続きますが、今回はここまで。後篇では高橋由一や骸骨でお馴染みの旭玉山などが登場。山下先生、井浦さんの“ウチに持って帰りたい作品”とはいかに?

Photographs © 2014 Museum of Fine Arts, Boston.
構成/藤田麻希

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